腰椎椎間板ヘルニアはたんに出っ張った椎間板が神経を圧迫して痛むという単純なものではないということが医学界でもはっきりしてきました。
2017年2月にアメリカ内科医師会(ACP:American College of Physicians)は、腰痛ガイドライン発表しました。
腰痛に対して、薬物療法は、ほとんど効果がないことを明記しています。代わりに推奨しているのは、非=薬物療法として、鍼、エクササイズ、リハビリ、マインドフルネス瞑想、太極拳、ヨガ、バイオフィードバック、脊椎マニピュレーション(カイロプラクティック手技)、認知行動療法です。
腰痛は整形外科的な面だけでなく うつ病等の脳の面からもみる必要のある複雑な疾患です。一部の整形外科医の先生は心療内科と連携して治療したりしています。鍼灸は単独で患者さんの頭も身体も治していけるすぐれた治療法です。安心してまかせてください。
腰痛に関連しては 専門誌 医道の日本2017年4月号に「春に多発する症状とその治療」発表しています。
田井(仮名)さんは40代後半の女性、ずっと立ち仕事をされています。2ヶ月前に腰痛に襲われ、靴下もはけなくなりました。行きつけの整体で治療し少し落ち着いたものの今度は左の脚がしびれはじめました。夕方になると立っているのも苦痛で、仕事もお休みされています。「もう仕事を続けられない」と退職も考えられているご様子。「しばらく結(ゆい)の治療を受けてください。それから決めても遅くないです」と言って治療を開始しました。1ヶ月8回の治療で治りました。決まって夜中3時に目が覚めていたのもなくなりました。
田井さんに限らず、痛みが1~2週間程度続くと、気分も落ち込み悲観的になっていきます。気分が落ち込んでいる時に退職のような重大事は決めてはいけません。結論は先送りしてください。退職を思いとどまった患者さんは多数いらっしゃいます。鍼灸は腰や足の痛みやしびれとともに気分の落ち込みもいっしょに治していきます。
治療後のアンケートでは治療前の苦痛を10とすれば今は0と回答され、以下のようにコメントされました。
もともと腰痛があったので行きつけの整体に通っていたが今回の足の太ももの痛みやお尻の痛みがいつもと違った感じだったので、整体に通っていてもどこかで疑問があった。左足のしびれがあった時もそのうち治りますよと言われたが、しびれ感が強まり婦人科系のこと(閉経)もあってはハリ治療がいいのではと思い、会社の同僚が通っている当院を紹介してもらった。はじめの治療の時、決まって夜中3時に目が覚めることを何気なく言ったらちゃんと聞いてもらって本当によかった。ずっと気になっていたし(治療後は)だんだん目が覚めるのが6時前くらいになってきて気持ちがほっとするほっとするとやっぱり一日が始まる!という感があって気持ちが前向きになってきた。この1カ月余りで左足のしびれが取れ同時に気持ちが前向きになれたのがよかった。平日仕事が終わって夕方の通勤電車で、通院の時立っていても電車がゆれると人にぶつかってばかりでしんどかったことも今はちょっととした思い出になってきました。
◆アンケート用紙の裏までコメントを書いていただきました。写真は前半部分です。
※治療例は個人情報保護の観点から、患者さんの年齢、状況を大勢に影響ない範囲で少し変えている場合があります。
脊柱管狭さく症とは加齢とともに背骨の中の脊髄神経の通り道、脊柱管が狭くなってきて足がしびれて、少し距離で歩けなくなる病気です。足のしびれは しばらく休めば回復して、再び歩けるようになるのが特徴です。鍼灸でしびれはなくなり、長い距離も歩けるようになります。いったん治ってしまえばそうそう 再発するものではありません。脊柱管が狭くなるのは元に戻せませんが、血流や神経の状態が回復すると考えられます。
坂下(仮名)さんは70代後半のお年寄りの男性です。最初は30mも歩けない状態。左の腰から足にかけてしびれて痛みます。1ヶ月に8回治療したと ころ痛みはなくなりました。その後は週1回のペースで治療継続。2ヵ月後には普通にゴルフのコースを回れるようになりました。脊柱管狭さく症は治ったので すが、本人いわく「元気にゴルフをするために」治療を続けています。アンケートには「MRIで脊柱管狭さく症とわかり本格的に治療をしていただき最初は 30mも歩けない状態でしたが今ではすっかりよくなりゴルフを週2回のペースで行っています。13000歩、歩いています。おかげで治療前のあの苦痛がう そのようになくなり毎日がうそのようです。」とコメントをいただきました。8月の炎天下、朝の9時から昼食休憩を入れながら昼の3時頃までゴルフをされて います。その間、腰が痛くなったり脚がしびれたりすることは1度もないそうです。
※治療例は個人情報保護の観点から、患者さんの年齢、状況を大勢に影響ない範囲で少し変えている場合があります。ご了承ください。
40代の女性が来院されました。マラソンランナーで、100キロマラソンも走っていらっしゃいます。走り始めると左脚の後ろが痛み始めます。2ヶ月前から痛み はじめ、練習できないと嘆かれていました。2回治療したところ、3日間にわたり10キロずつ走っても痛むことはなくなり、3回約1週間で治療を終えました。アンケートには次のようなコメントをいただきました。
3回の治療で痛みが消えました。以前に別の鍼灸整骨院に通っても治らなかった ので、3回で治って驚きです。今はもう痛みの事を考えずに走れるのでとてもう れしいです。胃腸の調子もよくなりたくさん食べられるようになりました。本当にありがとうございました。コメント以上
じつはこの女性は胃腸が弱く、一度にたくさんは食べることができないタイプ。 中医学では脾気虚(ひききょ)と呼ばれます。油断するとすぐに体重が落ちて耐久 力がなくなるので、何回にも分けて食事されています。鍼灸治療ではスポーツ障害の筋肉を治すだけでなく、気を補い胃腸を改善すること、脳を活性化し、走れ ないことで失われた自信を回復し、痛みの恐怖から気持ちを解放するようにしました。
左脚を傷めてからは、体重が落ち体脂肪が増えていました。治療終了時は 以前よりたくさん食べれるようになり、体重増えて体脂肪が減ったとのことでした。短期間に筋肉がついてきたことがうかがわれます。
100キロマラソンの時は 走っている途中にバナナやおにぎりの食事をとるのですが、レース後半になると食べられなくなることが悩みの種でした。「脾気虚(ひききょ)が改善すれば食べ られるようになります。」とアドバイスしました。
スポーツ障害は激しい練習のためか、腎虚(じんきょ)や気虚(ききょ)が多くみら れます。蓄積疲労と練習できないショックから軽い抑うつ状態に陥っている方も いらっしゃいます。筋肉や関節だけでなく身体全体を治していくことが大切です。
写真は自筆のアンケート回答腰椎(腰の骨)に明らかな異常がなくても痛みは生じます」と福島県立医科大学医学部整形外科の紺野愼一教授は新聞記事等で発言されています。 紺野教授によると 外来の腰痛患者の約7割はMRIなどで検査しても異常が見つからない。異常が 見つかった約3割についても「そこが痛みの原因であるとも限らない。画像だけでは痛みの原因はわからない。これが新しい常識です」とのこと。 私もこの見方に賛成で、著書でも結のHPでもとりあげてきました。
最近、紺野教授は脳内の中脳辺縁系ドパミンシステムに注目されています。
痛み刺激があると中脳辺縁系から神経伝達物質ドパミンが放出、ドパミンによって鎮静作用物質オピオイドが産生され、痛みが抑えられます。ところが心理、社会的ストレスを受け続けるとドパミンの放出が減り、オピオイドも減ります。これによって痛みが増します。ストレスがあると痛みがよりひどく感じるようになるのです。
じつは伝統的中医学でも痛みには脳が関係しているという学説が古くからあり、しつこい痛みには精神を安定させる手足のつぼや頭のつぼを使う治療が行われてきました。
古典には「いろいろな痛みや痒みはみんな心が関係している」「患者の情緒を安定させれば気の流れがよくなり痛みがなくなる」という趣旨の記述があります。最先端の脳科学と伝統的中医学はじつは同じことを言っているのです。
紺野教授は抗うつ剤を治療に取り入れられていますが、私はやはり依存性のある抗うつ剤よりも針灸で治していった方がいいと考えています。
NHKの番組、ためしてガッテンの再放送を見ました。
「驚異の回復!腰の痛み」というもの。腰痛の患者さんから「福島医大の先生が出てた」と教えてもらったからです。やはり福島県立医大の紺野教授が出演されていました。
私の著書「灸法実践マニュアル」でも紹介している先生です。
ためしてガッテン の内容はこちらから
「腰痛の85%が原因不明」という事実、「脳」と「腰痛」の意外な関係
番組では以下のように紹介しています
◆「腰痛の85%が原因不明」という事実、さらに、主犯と考えられていた椎間板ヘルニアさえ、犯人じゃない!?手術しても意味ない!?
◆取材を続けると、そんなナゾ多き痛みに、今50年に1度という大発見がありました。それはなんと「脳」と「腰痛」の意外な関係。
◆福島県立医科大学が、原因不明の腰痛患者の脳血流量を調べたところ、なんと7割の腰痛患者が、健康な人に比べて血流量、つまり脳の働きが低下していたのです。
ストレスが痛みを増強させる理由は、ストレスが痛みの原因を作るのではなく、小さい痛みを強めて激痛を生み出すことが分かってきました。
◆紺野教授は、治療の決め手は「痛みの悪循環」を絶つことにあると考えています。
腰が痛い → 活動低下 → 家族・医師の不理解 → もっと痛い
こうした腰痛患者が陥りやすい一つ一つの要素がそれぞれ患者に大きなストレスとなり、脳の鎮痛システムが働かなくなるので、痛みが増加しているというのです。
◆鎮痛を司る脳の部分は、快楽と強く関連する場所なので、自分の好きな食べ物や音楽、においなどを積極的に取り入れることで、働きがよくなり、鎮痛作用が高まるとされています。腰が痛いから、家に閉じこもって痛みに耐えるのではなく、できるかぎり自分の好きなことをしたり、考えたりすることが、腰痛の治療になるという新常識です。
以上のような内容なのですが、「腰が痛いから、家に閉じこもって痛みに耐えるのではなく」といわれたところで痛いものは痛いというのが実際です。
私は鍼灸でできるだけ早く痛みをとり、動いてもらうようにしています。
「動いたら痛くなるんじゃないかと心配しなくてもいいですよ。痛くなったら鍼灸で治します」といって患者さんを励ましています。
ストレスがあると腰痛はひどくなる、そ肝(そかん)で治す
ストレスがあると腰痛はひどくなるのですが、「でもどうすればいいんだ」と困惑する患者さんも少なくないでしょう。
中医学的鍼灸はストレスをなくす治療をそ肝(そかん)、気分の落ち込みを治す治療を昇陽(しょうよう)とするなど精神状態、脳の状態を治療するやり方が豊富です。
今回のためしてガッテンでは犬を飼い、犬に愛情を注ぐ中で腰痛が改善された例を紹介しています。 私も著書「灸法実践マニュアル」144ページの中で似たような例を紹介しています。以下紹介
たとえばこんなことがありました。障害のある妹を介護するお姉さんは妹を抱くと、妹の嬉しがる様子に自分も幸せになるといいます。「今までは腰痛を気にして抱けなかったけれど、痛みが治まってきたから抱いてもいいのでしょうか?」私は次のように励ましました。
「大丈夫、痛みが出たら鍼灸で治します。悪化はさせません。今ぐらいの水準には簡単にもどします。やりたいことをやってみてください」喜びの感情が陽の気を活性化し、通陽通絡で気滞をとることにつながります。少々負荷をかけても大丈夫です。
西洋医学から腰痛治療での脳の役割を重視する動きが出てきたのは歓迎すべきこと。患者さんの気持ちを大切にする治療につながるからです。
私の腰痛治療はその中医学版ともいえます。
著書142ページに「全ての慢性腰痛は心身症である」と見出しで書いています。
編集者からは「先生、こんなこと書いていいんですか。」と言われましたが押し切りました。
あれから2年、ついにNHKも肯定的に取り上げたようです。
ギックリ腰になったとき、どうなふうに過ごせばいいのでしょう。
一般に安静といわれていますが、どの程度の安静が必要なのでしょうか。
結論からいうと寝てればいいというわけではありません。
程度によります。
ちょっとでも動いたら痛いときは仕方がありませんが、少し動けるときは寝たりおきたりすることをお勧めしています。
全然 動かないと筋肉も衰えるし、内臓もうまく機能しなくなります。
動かない時間が長すぎると、動かないことからくる不具合が多くなるのです。
早く針灸治療して早くよくしてくださいというのはそのためです。ちょっとでも動いたら痛くなる場合でも、手を握るとか腕を動かすとかはできるはず。
ギックリ腰 脚に力を入れたり、ぬいてみたりすることもできるはずです。
これだけのことでも血流は改善します。
じつは私の針灸治療は患部を治しているだけではありません。
患者さんの脳にはギックリ腰の痛みの記憶が深く刻み込まれています。
この痛みの記憶を上手にリセットしてあげることも大切です。
針灸で痛みの記憶を消すこともできます。痛みの記憶も長引くとなかなか消えにくくなる場合があります。
早く針灸治療して早くよくしてくださいというのはそういう意味もあるのです。
ぎっくり腰の時は重いものをもたない
先月 ある30代の男性がぎっくり腰で来院されました。
峰岸(仮名)さんは 朝、脚を引きずりながらこられましたが、治療後はすたすた歩いて帰られました。
翌日夜来院されたときはちょっと痛そうです。
「1日 会社で座っていたら、だんだん痛くなってきた」とのこと。
「仕事中、30分~1時間に一度は、立って軽く身体を動かしてください」とお願いしました。
峰岸さんの持ってきた大きなカバンを持ってみるとすごく重い。
仕事の資料がたくさん入っているそうです。
「腰が痛くなったときは、資料を減らして軽くしてください、どうしても減らせない時はキャリーバックで引くようにしてください」「痛みがなくなったからといって治ったと勘違いしないでください。治る方向に身体が動き始めたと考えてください、無理しないでください」とお願いしました。
座り続けない+振動をできるだけ避ける
2回 治療してすっかり腰の軽くなった峰岸さん、じつは単身赴任で明日は奥さんのところに帰られるとのこと。奥さんが初産でもうすぐ予定日だというのです。
高速バスで数時間かけて帰るというのを必死に説得しました。「長時間座り続けるのと、バスの振動、これが腰によくない。電車ならまだ30分に一度程度は車内を歩くことができます。飛行機は乗っている時間が短くてすみます。バスはやめてください」「初産は女性にとって大事業、不安感もいっぱいのはず。そばにいてあげてください。夫が腰を痛めてそばにいられないというようなことになったらとり返しがつきませんよ」「男は過ぎたことは忘れます、後でうめあわせをすればいいと思っているかもしれませんが、女の人は出産の時のことは忘れませんよ」等々。なんとか電車で帰ってもらうことになりました。
トラック運転手の方を治療していると「今日は、揺れの少ない新型車だったから腰が楽だった」というふうに聞くことがあります。長時間座り続けること+振動、どうもこれが腰にわるさをするようです。
※治療例は個人情報保護の観点から、患者さんの年齢、状況を大勢に影響ない範囲で少し変えている場合があります。ご了承ください。
腰痛の見方は大きく変わった!
現代医学の分野で腰痛についての考え方が大きくかわりつつあります。2008年1 月の関西中医鍼灸研究会で早川敏弘会員(天津中医薬大学準教授)が
報告してく れました。
一般の方向けに要約すると、
◆現在は「腰痛」「腰椎椎間板ヘルニア」の概念が大きくかわりつつある。
◆腰痛の原因として心理・社会的要因の要素が大きく注目されている。ストレス による心身症として腰痛を考えることが多くなっている。
◆腰椎椎間板ヘルニアがあってもそれが痛みの原因とは限らない。 ストレスによる心身症だけでなく、梨状筋(りじょうきん)症候群など、筋肉・ 関節のトラブルが腰痛や下肢の痛みの原因である可能性が高い。(梨状筋とはお 尻にある筋肉の呼び名です)
といったことになります。腰椎椎間板ヘルニアでも特殊な場合をのぞき、医師が 手術を積極的に勧めることはまずなくなりました。
画像だけでは痛みの原因はわからない
「腰椎(腰の骨)に明らかな異常がなくても痛みは生じます」と福島県立医科大 学医学部整形外科の紺野愼一准教授は新聞記事等で発言されています。 紺野准教授によると 外来の腰痛患者の約7割はMRIなどで検査しても異常が見つからない。異常が 見つかった約3割についても「そこが痛みの原因であるとも限らないのです。画 像だけでは痛みの原因はわからない。これが新しい常識です」とのこと。 日本整形外科学会の腰椎椎間板ヘルニアについてのパンフレットにも「MRI画像で椎間板が膨らみだしていても、症状がなければ多くの場合問題はありません」 と明記されています。 紺野准教授は患者さんの腰痛に心身症の要素が大きいとなると、精神科、心療内 科と連携して治療されています。日本の整形外科の腰痛治療の新しい流れです。
※ 専門家、鍼灸学校学生の方は、福島県立医科大学教授の菊池臣一先生の『腰 痛をめぐる常識の嘘』(金原出版)を読まれることをお勧めします。菊池先生は腰 痛の世界的権威であるカナダのイアン・マックナブ教授に師事。日本整形外科学 会の会長を務めた経験もあります。象牙の塔にこもっている方ではありません。 「この本の内容はある意味では一臨床家の腰痛研究の足跡かもしれません」と序 文にあります。臨床での疑問を大切にされている姿勢には好感がもてます。お父 様はなんと「ほねつぎ」、柔整師でした。
治らないという呪縛(じゅばく)
しかし、新しい考え方はまだまだ大きな流れにはなっていません。患者さんはMRIの画像を見せられ、不十分な説明を受け「ヘルニアが神経を圧迫している」 「治りにくい」と意気消沈してしまうことも多いのです。レントゲンの写真で 「骨の間が狭まっている」といわれて「もう治らない」と絶望してしまう方もい らっしゃいます。医師の側にそんなことを言ったつもりはないでしょうが、治ら ないと言われたと受け取ってしまう場合が多いのです。実際は治るのに、「治ら ない」「治りにくい」と思い込んでしまいます。治らないと思い込むと、治りに くくなってしまいます。
「変形性脊椎症」「椎間板ヘルニア」「脊椎すべり症」本当はすべて治ります。 変形は治らなくても、日常生活に支障がない程度には治るのです。 医師、柔整師や鍼灸師、治療家の中にも「これは治りにくい」と不用意に発言し てしまう先生が、ほんの一部ですがいらっしゃいます。本当に難しく治りにくい ものは仕方がありませんが、「この程度で治りにくいといわれたの!」とこちら が驚くような例も結構あります。私の治療は患者さんを励ますことから始まりま す。
じつはすぐに治った腰
松野 武さんは 30代の男性。工場で働いていらっしゃいます。職場のリーダー で若い人たちを指導されています。 身体が疲れやすく、腰痛があります。背中が全部はるそうです。 ある製品を持ち上げる仕事が日常的にあるのですが、さっとうまく持ち上げるこ とができません。いつも手間取っています。若い人にしめしがつかないと嘆かれ ます。 ある製品を普通に持ち上げられるようにすることが重要だと考えました。松野さ んは製品を持ち上げようとして毎日、自信喪失しているのですから。仕事で一番 多い作業が普通にできるようになること、製品を持ち上げることから自信が回復 していきます。
松野さんは「この腰は治りにくいので、時間はかかるとおもうのですが」とおっ しゃいます。近くの整骨院に通院されていたのですが、この腰は治りにくいと繰 り返し言われたそうです。「骨盤がゆがんでいるそうです。腰の骨が曲がってい るそうです」と整骨院で言われたままに説明してくださいます。 実際に診断してみると、腰はたいして悪くはありません。筋肉は十分ついている し、立派な体格の方です。「大丈夫、あなたは元気だ」と励まし、針灸治療した ら、その場である製品と同じくらいの重さの砂袋を普通に持ち上げられるように なりました。きつねにつままれたような顔で驚いていらっしゃいました。
車に乗るとまだ腰は痛みますが、工場の仕事では痛まなくなりました。じつは松野さんは数年間うつ病に苦しんだ方。一年前から薬なしでも生活できるようになったのですが、疲れやすく人の名前もうまく覚えられない、なんとかならないかと来院されたのです。松野さん自身、腰はほとんどあきらめていらっしゃいましたが、こちらは治しやすいと判断しました。まず腰から治して自信をつけていただこうと考えたのです。
小さな息子さんも、腰痛が怖くて抱けない状態でしたが、「大丈夫抱いてください。ひどくなったら結(ゆい)で治します」と励ましました。息子さんを抱く時の喜びの感情は気のめぐりをよくします。心配して抱くと悪くなりますが、喜んで抱くとたいていは大丈夫です。
2008年1月下旬~3月に治療しました。2月の治療の時には、ものの色が前より鮮やかに感じるようになったと印象的なことをおっしゃいました。それまでは周りがベールの向こうにあるような感じがして現実感がなかったそうです。3月になると日常業務に支障はなくなった。記憶力も回復してきた。仕事の能率も上がっている。身体は疲れにくくなったということで治療を終了しました。昇進が決まり、喜んでいらっしゃいました。
これでお嫁にいけるかしらの腰椎椎間板ヘルニア
山田 茂子さんは20代の会社員です。2007年の秋に腰痛で動けなくなりました。
整形外科で腰椎椎間板ヘルニアと診断された後、他のところで4~5回針灸治療をしたのですが、一向によくなりませんでした。結(ゆい)に来院され たのは11月の初めの頃です。
上半身が大きく横に傾いています。椎間板ヘルニアの方に時々みられる症状です。「これでお嫁にいけるかしら」と初診の時に心配そうにおっしゃいます。「大丈夫、痛みもなくなるし、身体もまっすぐになります」と励まして治療を開始。 3回ほどの治療で痛みなく歩けるようになりました。11月終わりまで10回ほどの治療すると腰痛はなくなり、姿勢もまっすぐになりました。
12月初旬、好きなロックバンドのコンサートに行きたいとおっしゃいます。数時間、列車に乗るとのこと。「痛みが再発しても、数回で治せると思うから、楽しんでくれば」と送り出しました。結局オールスタンディングのコンサートを2日続けて楽しまれました。追っかけです。ロックですから当然、観客も飛び跳ねます。飛び跳ねて衝撃を加えるのは椎間板ヘルニアの腰には、あまりよくないとされているのですが山田さんにはなんともなかったようです。喜びの感情は気のめぐりをよくします。2日続けてコンサートに行った事実に「たいしたもんだ」と感心すると「私、やるときゃやる んです!」と自信ありげに一言。「これでお嫁にいけるかしら」と最初につぶやかれた時とは別人のようでした。
※ 治療例は個人情報保護の観点から、患者さんの名前を仮名としているほか、年齢、状況を大勢に影響ない範囲で少しだけ変えている場合があります。ご了承ください。
ヤフーのニュースに時事通信の配信として以下のような記事が掲載されていました。
◆腰痛には「はり」が効果的=患者ら、西洋医学よりも評価-米誌
10月2日時事通信
【シリコンバレー1日時事】腰痛患者に西洋医学による治療と漢方のはり治療を別々に施して効果を聞いたところ、効き目を実感したはり患者の数は西洋医学患者の2倍近くに上ったことが分かった。 独レーゲンスブルク大の研究者らが約 1200人(平均年齢50歳)を対象に調べたもので、このほど米医学専門誌に調査結果を発表した。
やっぱり腰痛には針が効きます。
それも早ければ早いほどいい。
当院の針治療は 生姜(しょうが)の温灸等を多用する独特なものです。
気持ちよくて、しかもよく効きます。
格差社会でつまづかないために
腰痛で仕事を続けられなくなる人は多いのです。
格差社会を扱った記事やルポの中には、腰痛で仕事が続けられなくなったとか、職安で紹介される仕事が腰につらい仕事ばかりなので、なかなか仕事につけないとかいう記述がじつに多い。
みなさんは気がついていますか。
痛み止めのお薬は治療とは呼べません。痛みをとめて腰が自然治癒力で治っていく間をしのぐための薬です。腰に注射をうつのも同様です。
実際は薬で麻痺させているだけ。
痛みが和らぐと患者さんは治ったと錯覚しすぐに腰を酷使してしまいます。いつまでも治らず、いつまでも痛み止めを飲み続けるといった状態に陥ってしまう場合も少なくありません。
針灸は積極的に痛みのもと、腰そのものを治していく治療です。痛みをとるだけでなく、わるいところを治しています。
自然治癒力を活性化させますから、仕事をお休みする時間も短時間ですみます。
なんとかなるだろうと我慢して放置し、腰の筋肉がやせ細ってしまった患者さんをたくさん診てきました。
治ることは治りますが、痛みをとり、筋肉の回復をうながしていく治療は時間もお金もかかります。
長い痛みは人をうつ状態に落とし込みます。早めにきちんと治しましょう。
2007年2月6日の日経新聞夕刊に腰椎椎間板ヘルニアについての記事が掲載されました。「保存療法で9割治癒」という見出しが語るとおり、保存療法を選んだほうがいいですよという趣旨。
「椎間板ヘルニアは背骨の間にある椎間板がつぶれ、神経を圧迫して下半身に痛みやしびれが生じる病気。重症になると身動きもとれない」と紹介されています。
結(ゆい)にも動けなくて、一輪車に乗せられて来院した患者さんがいらっしゃいました。痛みのために上半身が上げられずお辞儀をしたままのような姿勢で来院された患者さんもいらっしゃいました。2人ともきちんと治っています。
記事は再手術の危険性にも触れ、「やっかいなのは手術をしてもその後同じ椎間板を痛めてしまう可能性がある点だ」「一度手術した場所は神経と周りの骨が癒着して動かしにくくなり、手術の難易度が上がる。また回数を重ねるほど削った背骨の安定感が減る」とした上で関東労災病院の整形外科部長の「ヘルニアの9割は保存療法で対処できる」という言葉でまとめています。
手術について率直に評価している点は立派な記事ですが、整形外科の先生方だけに取材しているためか、保存療法の中に鍼灸が紹介されていない点がまことに残念!
今日は大阪も大雨。梅雨も本格的になってきました。
晴耕雨読(せいこううどく)
今朝一番、来院された80代の男性が「今日は左足が重い」とおっしゃいます。
「しばらく歩くと、左足がしびれてきて歩けなくなる」という症状で来院され、数回の鍼灸治療でよくなられた方。つい先日「○○公園まで休まず歩けるようになった」とうれしそうに報告されていたのに、今日はちょっと不機嫌そうです。
この方は脊柱管狭窄症、お年とともに背骨の中の脊髄神経の通り道、脊柱管が狭くなってきて足がしびれて、少し距離で歩けなくなる病気です。
足のしびれはしばらく休めば回復して、再び歩けるようになるのが特徴です。鍼灸でしびれはなくなり、長い距離も歩けるようになります。いったん治ってしまえばそうそう再発するものではありません。脊柱管が狭くなるのは元に戻せませんが、神経の状態が回復すると考えられます。
今日は朝から雨が降っていたので「雨の中を歩いたでしょう」と聞くと、「いつも通り、朝の散歩をした」とのお答え。私は「晴耕雨読(せいこううどく)でいきましょう」と申し上げました。
決めたことを適当に守る
雨の中を長く歩くと、湿気や冷えにやられて、腰痛や関節痛、脊柱管狭窄症のしびれ感がひどくなったりします。この方の場合は、しびれの再発まではいかなかったのですが、足が重く感じたようです。散歩も大切ですが、雨の日や、あまり暑い日寒い日の散歩は体調をかえって悪化させてしまうことがあります。
晴耕雨読、晴れた日は耕作し、雨の日は読書することにひっかけて、気候のいいときに散歩しましょうと申し上げたのです。
晴耕雨読にはもうひとつの意味があります。都会を避けて悠悠自適に生活する読書人(知識人)のように暮らそうという意味。悠悠自適(ゆうゆうじてき)、なにごとにもとらわれない落ち着いた気持ちというのも申し上げたかったことです。
散歩にしても「毎日すると決めたからにはやりぬくぞ!」といった生真面目(きまじめ)な方が患者さんに多いのです。体調や天気と相談し、ほどほどにやっていただきたいのです。
決めたことでも適当に守ってください。
脚のしびれがなかなかとれない方はいらっしゃいませんか。腰も痛いし脚も痛いという方はいらっしゃいませんか。腰椎椎間板ヘルニアの可能性があります。膝の裏や膝の回りの違和感や痛みも腰からきていることがあります。
腰の骨は積み木のように重なっています。その間に椎間板(ついかんばん)というゼリー状のクッションがはいっています。その椎間板に圧力が加わり椎間板の内部の髄核(ヘルニア) が後ろに飛び出したり、ふくれるようになったりして腰や足に行く神経を圧迫すると、腰痛やおしりや脚の痛み、足のしびれ感などが出てきます。これを腰椎椎間板ヘルニアといいます。硬いぐりぐりが 電線のような神経を押しているのです。
腰椎椎間板ヘルニアは針灸で治ります。でもこんな疑問はおきませんか。硬いぐりぐりが後ろに飛び出して、電線のような神経を押しているのなら 押している状態をなんとかしないと 治らないのではないかと。もっともな疑問です。手術の場合は ぐりぐり部分を切り取るのですから。
治った後に、圧迫がなくなる
結論からいうと硬いぐりぐりが 電線のような神経を押しているの状態でも治るのです。神経は押されたままでも治っていくのです。痛みやしびれ感がなくなります。
じつは以前はぐりぐりの様子は よくわからなかったのです。骨はレントゲンに写りますが ぐりぐりは写りません。最近 MRIという磁気診断装置が普及して やっとぐりぐりの様子がわかるようになってきました。ぐりぐりが 電線のような神経を押している状態のままでも、腰痛や足のしびれ感はなくなっていることがはっきりとわかってきました。
腰痛や足のしびれ感がなくなった後に つまり治った後にぐりぐりはゆっくりと小さくなっていくようです。
原因がなくならないと 症状が消えないわけではありません。ぐりぐり=髄核(ヘルニア)は、症状がよくなっていった後に小さくなっていきます、ある整形外科の医療チームも最近の研究でこれを明らかにしています。日本整形外科学会の腰椎椎間板ヘルニアについてのパンフレットにも「MRI画像で椎間板が膨らみだしていても、症状がなければ多くの場合問題はありません」と明記されています。
腰痛や足のしびれ感がなくなっていくなかで、ぐりぐりもゆっくり小さくなっていきます。押された神経が 押されながらも まずは機能を回復させていると考えてください。
MRIのおかげで新しい事実がわかってきました。すなおに考えれば、手術を選択する機会は今後 減ってくるでしょうが、現実はそうはなっていません。手術をすすめられた時はまずは1ヶ月程度の針灸治療をやってみることをおすすめします。結(ゆい)では週2回、全部で8回程度で満足できる治療効果を上げています。手術をしなくてもよくなった方がたくさんいらっしゃいます。
腰の骨がずれる
腰椎すべり症という言葉を聞いたことがありますか。
名前のとおり腰の骨が前方にすべっている、ずれている状態を言います。おへその真後ろあたりの腰の骨でよく起こります。腰の骨は積み木のように重なっています。その間に椎間板(ついかんばん)というゼリー状のクッションがはいっています。骨が前にずれるので、結果として椎間板がひしゃげてふくれるような形になり、腰椎椎間板ヘルニアとよく似た症状が出ます。
腰やおしりの痛み、脚のしびれ感などです。
ずれていても治る
腰の骨が前方にすべっている、ずれている状態と聞くと「治らない!」と悲観なさる人がいらっしゃいますが、そんなことはありません。腰やおしりの痛み、脚のしびれ感はきちんと取れます。腰の骨が前方にすべっている状態そのものは治りにくいのですが、日常生活にはなんの支障もありません。
腰の骨がすべっていても、腰痛もなく、気がつかないで暮らしていらっしゃる方も多いのです。
腰の具合の悪い方は以下のことに気をつけてください
1.痛みの出る姿勢をとらない
たいていは後ろにそりかえるようにすると腰が痛くなったり、膝の裏や足がしびれたりします。そういう姿勢をなるべく避けてください。ふかぶかとした腰が沈み込むようなソファも腰に負担をかけます。寝るときは、クッションなどを使い、足を上げるか、膝を曲げてお休みください。横向きにエビのように身体を折り曲げても良いです。ただし右の腰が痛い時に、右側を下にして寝るようなことはしないでください。健康のためにとヨガをなさる方がいらっしゃいます。結構ですが大きく腰をそらせるポーズはやめてください。
腰痛体操は腰痛を予防するための体操で、腰痛のひどいときにするものではありません。腰が痛いのに、医者に勧められたからと痛みを我慢して腰痛体操を続けていらっしゃった患者さんを何人も見ています。
2.重いものを持たない、持ち歩かない。
腰に負担をかけないようにできるだけ、重いものを持たないようにしてください。せっかく針灸治療して治ってきたのに、お米をスーパーから持ち帰ったら、痛みが再発してしまったというような話がよくあります。
3.だらだら歩かない、きびきび歩く
痛みが楽になってきたら腰の筋肉強化のために歩くのもお勧めです。腰の気のめぐりをよくするために、身体が温まるぐらいの運動量できびきび歩いてください。公園を晴れた暖かい日に散歩したらぐっと調子がよくなったという例もあります。反対にデパートを買い物で歩いたり、立ち止まったりしていたら腰が痛くなってきたという場合もあります。だらだら歩いて、腰に負担をかけただけという結果になってしまったからです。
4.寒い日 雨の日は歩かない
腰を冷やさないことは大切です。腰の気のめぐりを悪くすると、治りにくくなります。歩くのを医者に勧められたからといって、意地になって歩くことはありません。あまり寒い日や冷たい雨の日は、避けたほうが賢明です。
腰自身の異常があってもなくても痛む
MRI(磁気診断装置)など診断機器の発達で椎間板ヘルニアなどの状態がよくわかるようになりました。日本整形外科学会の腰椎椎間板ヘルニアについてのパンフレットにも「MRI画像で椎間板が膨らみだしていても、症状がなければ多くの場合問題はありません」と明記されています。つまり腰自身の異常があってもなくても、しつこい腰痛がおきていることがわかってきました。
腰痛はどこで感じているのでしょう。腰ではありません。脳で感じているのです。
痛みは記憶?
痛みは記憶の要素もあるといわれています。
慢性的な痛みが長く続いていると、脳が「痛み」を記憶してしまい、なかなか治らなくなるという説は有力です。交通事故などで失われた足や手が痛むという話を聞かれたことはありませんか。幻肢痛といいます。脳にまちがった情報が書き込まれてしまったからです。米国のラマチャンドラン博士は幻肢痛を鏡の箱で治療しました。なくした左手の激痛に苦しむ患者さんの残っている右手を鏡に写し、なくなった左手があたかも動いているかのように見えるように工夫しました。左手が正常に動いていると脳に錯覚させたのです。すると左手の激しい幻肢痛が消えてしまったのです。脳の「痛み」の記憶を消し去ることに成功したのです。
針灸にも残っている右手や脚をつかって幻肢痛をとる治療法があります。ツボを使って脳にまちがって書き込まれた情報を正しく書き直しているのです。しつこい慢性腰痛には、じつは幻肢痛のように記憶された痛みの要素があることが多いのです。右手や脚のツボに鍼をうつ行為はじつは、ツボを使って脳を刺激している行為なのです。脳を刺激し痛みの記憶情報を書き換えていきます。
脳の科学がもっと進化し鍼灸が再評価されることを期待しています。鍼の刺激と脳の関係を細かく調べる研究は米国と中国で進んでいます。
ツボを使って脳を刺激
うつ病は脳の神経伝達物質などの異常といわれています。うつ病の中でも腰痛や頭痛など身体の症状が主なものは仮面うつ病と呼ばれます。
脳の神経伝達物質などの異常に加え、痛みの記憶情報が誤って書き換えられた状態といえるのかも知れません。患者さんの立場からすると、慢性腰痛の中で抗うつ剤のような脳に直接作用する薬が効く状態と考えればいいのです。
腰痛でも頭のツボ
中医学で伝統的に使われてきた腰痛に効くツボの中には、腰ではなく頭に位置するものもあります。腰が痛い、腰がだるいという患者さんの頭に鍼や灸をすると不思議がられるのですが、脳の異常で腰痛が出ていると考えると、脳を一番刺激しやすい頭のツボを使うことは当たり前となります。
百会(ひゃくえ)という頭のてっぺんにあるツボはあるタイプの腰痛の時に使うのですが、じつはめまいの時や身体がしんどくなって、疲れやすくなっている時でも使います。仮面うつ病と診断される腰痛も、鍼灸は昔から治してきたといえるのではないでしょうか。腰痛を鍼灸で治していたつもりが、結局うつ病を治していたということもあったでしょう。
なかなか治らない腰痛は副作用のある抗うつ剤を飲み始める前に一度、鍼灸をお試しください。
急性の腰椎捻挫です。骨に問題はなく 筋肉や筋が痛んでいます。
まず一回で 劇的によくなります。電気かけたりマッサージしたりするより 鍼が効果的です。毎日 針灸治療したほうが早くよくなりますが、針灸治療は自由診療ですから 患者さんと相談します。 柔整治療を補助的に入れて、針灸治療を1日か2日おきにすることもよくあります。
標準的には まず一回で 劇的によくなり、2日に一度程度の針灸治療を3回ほどでほぼ完治します。針灸は鎮痛剤とは違います。いったん痛まない状態になり、しばらく痛まない状態がキープできれば、痛みが再発するということはありません。
ぎっくり腰も早ければ早いほどいいのですが、一週間ほど我慢して、どうにも治らないからといって来られる場合も結構あります。これが女性の場合 1~2回の治療で よくなった後 もう一度 ちょっと悪くなることがよくみられます。
何故でしょう?
じつは腰痛のために家事ができなくてたまっている、とくに掃除機をかけられないからです。ちょっとよくなると つい家事をこなし掃除機をかけてしまう。腰に負担をかけまた痛くなるのです。ちょっとよくなっても、お家がちらかっていても少しだけ我慢してください。家族の方は 家事を代わってあげてください。お願いしますよ.
腰の骨は積み木のように重なっています。その間に椎間板(ついかんばん)というゼリー状のクッションがはいっています。その椎間板に衝撃が加わり椎間板の内部の髄核(ヘルニア)が後ろに飛び出し、腰や足に行く神経を圧迫することにより、腰痛や挫骨神経痛、足のしびれ感などが出てきます。これを腰椎椎間板ヘルニアといいます。硬いぐりぐりが 電線のような神経を押しているのです。
腰椎椎間板ヘルニアは針灸で治ります。でもこんな疑問はおきませんか。硬いぐりぐりが後ろに飛び出して、電線のような神経を押しているのなら 押している状態をなんとかしないと 治らないのではないかと。もっともな疑問です。手術の場合は ぐりぐりを切り取るのですから。
結論からいうと硬いぐりぐりが 電線のような神経を押している状態でも治るのです。神経は押されたままでも治っていくのです。痛みやしびれ感がなくなります。
じつは以前はぐりぐりの様子は よくわからなかったのです。骨はレントゲンに写りますが ぐりぐりは写りません。最近 MRIという磁気診断装置が普及して やっとぐりぐりの様子がわかるようになってきました。ぐりぐりが 電線のような神経を押しているままでも、腰痛や足のしびれ感はなくなっていることがはっきりとわかってきました。
腰痛や足のしびれ感がなくなった後に つまり治った後にぐりぐりはゆっくりと小さくなっていくようです。
結(ゆい)通信7号でヘルニアと診断された知人の場合、結局 結(ゆい)で4月いっぱい9回の針灸治療をして治りました。知人はぐりぐりが大きいため整形外科ではさかんに手術をすすめられ 迷っていました。
5月になってMRIという磁気診断装置でみるとぐりぐりは半分くらいに小さくなっていましたが、まだ残っていました。足のしびれ感も痛みもきれいにとれていましたがぐりぐりはまだ残っているのです。
原因がなくならないと 症状が消えないわけではありません。ぐりぐり=髄核(ヘルニア)は、症状がよくなっていった後に小さくなっていきます、ある整形外科の医療チームも最近の研究でこれを明らかにしています。
腰痛や足のしびれ感がなくなっていくなかで、ぐりぐりもゆっくり小さくなっていきます。押された神経が 押されながらも まずは機能を回復させていると考えるほうがすっきりします。
MRIのおかげで新しい事実がわかってきました。素直に考えれば、手術を選択する機会は今後 減ってくるでしょう。読者のみなさんはそう思われますか。
実際は 日本ではそう迅速に合理的にことはすすまないでしょう。例えば 町内会やPTAでの決まり事は そう簡単に変更できません。合理的根拠がなくなっていても、今までやってきたことを変えるのは大変です。「今までどおり」が一番好まれます。
いままでの手術の有効性に疑問をもつような考え方が 権威ある学会(医学界)の先生方の間にそう簡単にとおるとは思えません。権威あるお年を召した先生方は 今までさんざん 患者さんの腰の手術をしてこられたことでしょう。今までの自分の仕事を否定しかねない考え方を検討してみようという広い心の持ち主は あまり多くはいらっしゃらないのではと私は邪推(じゃすい)しているのです。
もし腰椎椎間板ヘルニアになり、整形外科で手術をすすめられた時は どうぞ担当の先生と納得いくまで話し合ってください。あなた自身の身体なのですから。
3月終わりある知人から自宅に電話が入った。
「職場で会議用のテーブルを片付けていたら 腰が痛くなった。そのままにしていたら2日後 ひどく痛みはじめた。病院に行ったら腰椎椎間板ヘルニアといわれた。手術をすすめられているが、どうしようか」というもの。
電話だけでは くわしいことはわからない。 「すぐ手術というのはどうかな」ととりあえず答えた。
手術すれば治るのか?
腰の骨は積み木のように重なっていて、その間に椎間板というゼリー状のクッションがはいっている。
椎間板が破れたり 膨らんだりして近くを通る神経を刺激してしまうのが腰椎椎間板ヘルニア。 腰椎椎間板ヘルニアは すぐに手術をしないことの方が多い(程度がひどく 例えば神経の圧迫の具合から おしっこが出なくなったりする場合は すぐに緊急手術ということになったりするらしいが)整形外科の分野でも椎間板ヘルニアは まずは保存的に治療されることが多く、通常、保存的治療60%、手術療法40%と言われている。
ある病院のHPでは、手術療法は一般的には長期の入院とリハビリ期間を必要とし、肉体的時間的社会的経済的損失が大きい。しかも椎間板ヘルニアの手術療法と保存的療法では1年以内の短期成績においては、手術療法が勝るものの、4年の長期成績ではあまり差がないと率直に書かれていた。
この病院のHPの主張は、腰に椎間板ヘルニアの手術跡のある患者さんの腰痛の治療をいつもやっている私の実感とも一致する。手術すれば 根本から治るのではと患者さんは期待してしまうが けっこう腰痛は再発するんだな。
保存的療法とは 神経ブロック注射や腰を牽引したり 電気をかけたり暖めたりするやり方。針灸もじつに効果的な保存療法だ。
最近は レーザーを使った手術の方法もあるようで、あるタイプの椎間板ヘルニアには効くみたいで、日帰り手術も可能。ただし保険はきかないから 安いところでも 20万円以上はかかるらしい。先ほどの病院のHPでもレーザー手術を紹介していた。
結局 さきほどの知人は 結(ゆい)で治療をはじめ 4月中旬の今は 鎮痛剤の座薬を入れないでも 生活できるまでに回復している。無理をしなければ痛みをほとんど感じないで1日をすごせるそうだ。 そうはいっても椎間板ヘルニアは ぎっくり腰を治すようには簡単にはいかない。
腰椎椎間板ヘルニアはなってしまえばなかなか大変なのだ。
腰のトラブルは病的な老化の進行
腰椎ヘルニアは ぎっくり腰をくりかえしているうちになることが多い。また ぎっくり腰同様 発症する前には腰が重いとか 背中が重いとか、身体がだるい重いといった疲労感を感じている場合が多い。要するに無理に無理を重ねておこってくるのだ。
どうすれば予防できるのか、「腰痛体操」のたぐいの情報は ちまたに氾濫しているから ここでとりあげることもないだろう。 「無理をしないで身体を休めたらどうですか。仕事をしすぎないように」とまずは言いたい。
伝統的中国医学では 腰にトラブルがあれば 多かれ少なかれ、病的に老化が 進行している状態ととらえる。実際 腰のほかにも 目がかすんだり 膝に力がはいらなくなったりするような老人と似たような状態になることが多い。おしっこが近くなる人もいる。過労は病的に老化を早めるものだ。過労が腰にでているのだ。
伝統的中国医学による針灸治療の真骨頂は 病的に進行してしまった老化状態を治すことにある。だから腰がおもだるいとか 最近 ぎっくり腰をよくおこすけれどどうしたんだろうといった段階のうちに治療を始めたほうがいい。いっしょに出ている老化症状も治すことができるし、ぎっくり腰も椎間板ヘルニアも予防できる。疲れがとれる。生き生きと過ごせるのだ。痛みが出てからでないと対処できない 西洋医学のやり方とは基本が違う。
運動は大切だが
腰が痛いから 鎮痛剤を飲んで様子をみるというのもひとつの選択だが、様子をみる間 ゆっくり休養して過労をさけるということをしなければ、矛盾を先送りして 次の大きな破局を準備しているようなものなのだ。腰椎ヘルニア なってしまえばなかなか大変なのだ。
一日 12 時間くらいデスクワークで働いていて、「運動不足だから、運動しなければ」という人にはこう答えることにしている。「運動して身体が爽快になり 一晩寝たら 疲労が回復するようなら運動してください。反対によけい疲れるような時は ゆっくり休んでください。運動も義務のように考えたら かえってストレスになりますよ」と。
腰椎椎間板ヘルニアを予防する策はじつは「何もしないこと」「何もしないで ゆっくりのんびり身体を休めること」「何もしない自分を許すこと」なのだ。