暑くなってきましたね。
自販機も冷たいものばかり、外食しても冷たいスープなど冷たいものばかりが出てくる季節になってきました。
冷たいものはほどほどに、快適に外食するために
冷たいものばかり飲んだり食べたりしていると、身体を動かす陽(よう)の気を損ない、湿邪(しつじゃ)という余分な水をためこんでしまいます。 身体が重くだるくなり、肩こり 腰痛がおこりやすくなります。体温が低下すると免疫力も下がります。
先日 ある新聞に中国や台湾からの旅行者向けに冷たいものを出さないメニューをつくっている旅館が紹介されていました。中国や台湾の人たちは中国伝統医学の知恵が食生活の中に生きています。夏でも冷たいものはとらないのです。
日本人向けにもこういったメニューを出してくれるところがあればいいのですが、なかなかありません。 冷房の冷やしすぎはよくないというのは世の中に浸透してきましたが、食べ物の冷やしすぎはまだ考慮されていないようです。 冷たいパスタに冷たいスープ、冷たい吸い物に冷たい煮物、お刺身とコースやセットメニューには冷たいものが多いので、事前にメニューをよく確認することが大切です。
自衛法、いずれも私が実際にやっていることです。
水に氷を入れないように頼む
恥ずかしがらないでお願いしてみてください。 時々行くカレー屋さんは、私の顔をみると、氷を入れない水を出してくれます。同じ冷水でも、氷をいれてあるかどうかで大違いです。
熱いお茶を頼む
店によっては対応してくれます。 ポットに熱いお茶を入れて持参するという手もあります。
凍ったジョッキを断る
これはビールを飲むときのお話、凍ったジョッキはビールが冷えすぎてしまい身体にも悪いし、味もわかりにくくなります。 お店に言うと、結構 対応してくれます。 凍ったジョッキばかり準備している店で、2杯目を頼むときは飲み終わったジョッキを指差して「これに入れてもらえばいいですから」と言うことにしています。お店の人の手間を省くためです。
交渉してみる
コースやセットのメニューが冷たいスープとなっている時、温かいスープに変えられないかと頼んでみる。うまくいく時もあります。
お店にあまり人がいないのに冷房が効きすぎている時などは、弱くするか自分たちの方に冷風を送ってくるエアコンだけを切るようお願いしてみる。 お店も光熱費が節約できて助かるはずです。
とにかく自分たちにとって心地よいサービスはこういうことですよとお店側とコミュニケーションをとることが大切ではないでしょうか。丁寧に頼むとたいていはうまくいきます。
お盆休みに ぼおっとテレビを見ていたら、「身体によい」とされる食品の話等 健康情報の多さにびっくりしてしまいました。ほとんど垂れ流し状態ですね。
○○が身体にいいということが、いろんな形で語られています。たとえば緑茶。身体にいいということが繰り返し強調されていますが、気になる点があります。
1. 残留農薬
日本産にせよ中国産にせよ お茶の栽培中にどれぐらいの農薬がかけられているのでしょう。お茶は洗って使うことができない食品ですから、農薬が残っていれば身体に入りやすいのです。葉で売られているもので、無農薬のものは表示がきちんとされていますからできるだけ無農薬のものを使いたいですね。 お茶は身体にいいと、せっせと飲むことが、農薬をせっせと飲むことにならないよう気をつけたいですね。
2.緑茶のあう人あわない人
中国伝統医学では緑茶は身体の余分な熱をさます効果があるといわれています。緑茶の苦味が熱を冷ますのです。身体の余分な熱は身体の上部、頭に上がります。頭にたまりやすい、身体の余分な熱からくる口内炎、口の渇き、目の充血、頭痛やめまいに効果があります(頭痛やめまいは身体の余分な熱が、原因ばかりとは限りません。むしろ身体に必要な熱が足りなくなっておこる場合もあります。 口内炎、口の渇き、目の充血も主な原因が違う場合もあります。この辺の鑑別は伝統医学のプロの目が必要です)
逆にいえば、身体に余分な熱のない状態の人、冷えが強い人には緑茶はあまり向いていないということになります。実際 臨床の場で冷えの強い人に緑茶はお好きですかと聞くと、たいてい緑茶は好まないという答えが返ってきます。身体が知っているのです。
テレビで身体にいいというからと、身体が好まないものまで、無理にとることはありません。緑茶はそれなりに薬効のあるもの。とりすぎて身体の熱をさましすぎると、具合の悪い場合もあります。 なにごともほどほどが大切なのではないでしょうか。
たけのこは食物繊維のかたまり
スーパーに筍(たけのこ)が並ぶ季節になりました。たけのこは食物繊維のかたまりです。 食物繊維は身体にいいとされていますが、やたらと摂ればいいというものでもありません。適量は人によって違います。
内臓の働きがいいかげん弱くなっている人は 一度にたくさんの食物繊維は かえっておなかの動きをとめたり腹痛をおこしたりします。とくにお年寄りは要注意です。適量は自分の感覚と経験で見つけるしかないのです。
旬のものは 意識して、積極的に食べたほうがいいけれど
この時期、お腹が痛くなったとか どうも重い、はるとかいって来院される患者さんの何割かは 筍(たけのこ)を1~7日程度前に食されています。毎年 この季節になると必ず腹痛を訴えられ、いつも筍(たけのこ)を食べた後だったという、皆勤賞をあげたくなるような患者さんもいらっしゃいます。
もちろん針灸治療1~2回で簡単に治ります。
「旬のものは 意識して、積極的に食べたほうがいい」というのが 伝統的中国医学の考え方ですが、筍(たけのこ)に関しては 当てはまる人とそうでない人がいらっしゃるようですね。
うるち米ともち米の違い
うるち米という言葉を聞いたことがありますか。みなさんがいつも食べている白いごはんになるお米のことです。お餅や赤飯、おこわに使うのはもち米です。うるち米の性質は伝統的中国医学では「平」つまり体を温めもしないし冷やしもしないと分類されています。一方 もち米は「温」、体を温めます。
女性にお餅の好きな人が多いと思いませんか。女性はどちらかというと冷えやすい人が多いから、「温」、体を温める力のあるもち米からつくったものを好むのではと私は思っています。お餅はお正月に食べるものと決めつけてはいませんか。寒い季節、もっとたくさんお餅やおこわを食べてもいいのではないでしょうか。 中国医学では女性は体を温める力、「陽」が不足しやすく、男性は体を沈静化させる力、「陰」が不足しやすいと考えています。
伝統医学は性差を折り込み済み
西洋医学が女と男を人間一般として考え、どちらかというと男を標準として考えてきたのに比べ、伝統的中国医学では女と男の違いを重視し、細やかに対処してきました。鍼灸で鍼に刺激を加える手技(しゅぎ)という専門的な方法でも 女と男では 鍼を回転させる方向が違う場合があります。
西洋医学でも最近では女性専用外来や更年期外来を設けたり、お薬の量を女と男で違えてみたりといったことが、行われ始めたようです。 東京水産大学の保健管理センター所長、天野恵子さんは「男性の平均身長は170センチ、体重66キロ、女性は158センチ、52キロで、男女の体重差は14キロもある。にもかかわらず、服薬量が同じというのはおかしくはないか」と指摘しています。まったく当然の指摘で、西洋医学の変化は歓迎すべきことです。性差を考えないで、何々病にはこれだけの薬と決めてしまうのは、伝統的中国医学の視点からするとずいぶん乱暴に思えるからです。
お餅は自然食
話をもどします。
お餅は伝統的な保存食。日持ちします。そのためか、保存料着色料などの添加物がほぼない状態で、一般に市販されています。例えばパンの多くに添加物が加えられているのに比べれば、しっかり自然食品といえるでしょう。もち米から作るとなると大変ですが、お餅となれば後の料理はそれこそ煮るなり焼くなり簡単なもの。スローフードなのにファーストフードの利便性がある貴重な食材といえるでしょう。餅屋の回し者ではないのですが、もっと食生活に活用されてもいいのではと考えています。
伝統的中国医学では体を温める食べ物がたくさん紹介されています。うまいものを食って、寒さに勝つ!という訳です。
鹿肉の効用
まずはお肉 お肉にもいろんな特性があるのです。
身体を暖めるのに一番いいのは鹿肉、食べたことがない人がほとんどでしょう。げっ!そんなものどこで手に入るの?とか言わないでもう少し付き合ってください。
兵庫県のハチ高原に行く途中に獣肉屋さんがありました。そこで鹿肉を買ったとき、店員さんが、「私もよく食べるんです。体がほこほこして調子いいんです」と話してくれました。女性の店員さんはぬけるように白い顔色で いかにも身体の冷えやすそうな方。なるほどこの方なら鹿肉が合うだろうなと思ったのを覚えています。意外と淡白なあっさりとした食味です。くさみはありません。脂身は見た目にはほとんどありません。焼肉でもすき焼きでもいただけます。
たしかにその辺の肉屋さんには売っていませんが、デパートにはあります。インターネット上で 私が昨年 買ったのは長野の山肉専門店 星野屋さんのもの。牧場飼育でなく天然ものです。楽天市場に出店しています。
身体を暖める作用だけでなく、壮陽補腎(そうようほじん)という作用がありますから、寒いのに加え 腰がだるくて 冷えておしっこが近くて困るといった症状にも効きます。星野屋さんのホームページでは、「昔は布団を売ってでも鹿肉を食べろと言われ、布団いらずともいわれていました」と紹介されています。鹿肉は野生の鹿が今ごろ 猟期に入ります。冷凍ものではなく、とれたてというか撃ちたて?が食べられる頃です。食味はあっさり系、魚のまぐろに似ています。
鍼灸でいえば、俗にいう 臍下丹田(せいかたんでん)、関元(かんげん)という おへそのした3寸にあるつぼにお灸をする効果と似た効き目があります。 我が家では 冬の寒い日に、一度は鹿肉をいただくことにしています。
もう少しポピュラーなお肉としては羊肉があります。これも身体を暖める作用の強い肉です。ラムは臭みが苦手という人もいらっしゃるでしょう。じつは私も苦手なので、さらっと紹介するにとどめます。
鶏肉の効用
鶏肉は温中益気(おんちゅうえっき)つまり消化器系をぬくめ、その働きを高め、補気養血(ほきようけつ)つまり気や血を増やすことができるとされています。
鹿肉の場合が壮陽補腎(そうようほじん)という作用が主、泌尿器生殖器系に強い効果を持つのに対し、どちらかというと消化器系になります。疲れて、寒くて、食欲がないといった時にいいでしょう。鹿肉ほど強烈に温める作用はないけれど広くいろんな場合に効くということです。疲れ一般に効くと思ってもらってかまいません。
鍼灸では中かん(ちゅうかん)というおなかにあるつぼにお灸をし、足三里(あしさんり)という下肢にあるつぼに鍼か灸をした時の効き目に似ています。
疲れている時に、ラーメンが食べたくなる人って結構いらっしゃるでしょう。一般的なラーメンは鶏がらでスープをとります。鶏の薬効を知らず知らずに利用しているのかもしれません。
「なんだ、ファーストフードのなんとかチキンを買えばいいのか」と早合点しないでください。身動きできないケージで飼育され、飼料に抗生物質や抗菌剤、遺伝子組み替えとうもろこしを与えられた鶏に同じ薬効があるかどうか私にはわかりません。医食同源の中国医学の知恵は、その時代、古代の鶏を食べる中から生まれてきたもの。のびのびと平飼され 自然のままの飼料で飼育された鶏の方がしっかり薬効があるのではと私は思うのです。それにしっかりうまいのです。
確かに自然飼育の鶏の方が値は張ります。でもわけのわからない健康食品にお金を使うぐらいなら、いつも食べるものを、安全で薬効のあるものにするためにお金をつかったほうがいいのでは考えているのです。医食同源なのですから。
便通は普通です?というが・・・
初めていらっしゃった方に、「便通は?」と聞くと、便秘の人以外は、たいていは「普通です。」と答えられる。毎日あるいは2~3日に一度、うんこをすれば、まあ便秘とはいわない。
しばらく結(ゆい)で針灸治療を受けられた方に、私はよくこんな質問をする。「どうですか、大便の量が増えたでしょう?」たいていの方から「量が増えました」という返事がかえってくる。
別に患者さんたちは大便の量を増やすために結(ゆい)で治療を受けたわけではない。それぞれにつらい症状を抱えて当院に治療にいらっしゃっている。私が「大便の量が増えたでしょう?」と聞くのは、内臓の働きが弱いだろうなと診断していた患者さんたちに対してだ。治療して内臓の働きがよくなったことを 腸の動きで確認する。
針灸は身体全体を治していく。つらい症状も 鎮痛剤のように感じなくさせているわけではない。内臓の働きが弱い患者さんの、内臓の働きをよくし、身体の機能全体をアップさせていくなかで、つらい症状もおのずとなくなっていくようにしむける。
世界で違う大便の量
便秘は気になっても、大便の量なんてふだん気にもとめない人がほとんどだろう。小指の頭ほどでも大便が出ていれば 便通は問題ないと思われる。「便通は?」と聞くと「普通です。」と答えられるわけだ。
じつは大便の量は地域によって違う。ある調査では、アフリカやインドの住民は一日に400-800gの大便を排泄するのに対し、北米、西ヨーロッパでは100g前後に過ぎないといわれている。
日本はその中間の150~200g。食べる食物繊維の量の違いが大きいといわれている。肉食や精製された白パン中心の欧米型食生活が大便の量を減らし、ガン、高血圧、肥満、糖尿病などの生活習慣病(成人病)を増やしていく。と、ここまではいろんな健康情報で流されていることだ。
ここから先が ここだけの話になる。
食物繊維、過ぎたるは及ばざるがごとし
たしかに食物繊維は身体にいい。しかし、やたらと摂ればいいものでもない。適量は人によって違うのだ。適量は自分の感覚と経験で見つけるしかないのだ。
内臓の働きがいいかげん弱くなっている人は、一度にたくさんの食物繊維は、かえっておなかの動きをとめたり腹痛をおこしたりする。
「前回の治療の後どうも調子悪くて、おなかが痛くなり始めたんです」あるとき治療をはじめて数回の若い女性の患者さんが、おっしゃる。どうも変だと、よくよく聞くと前回の治療後、何回かごぼうばっかりの食事を続けたことがわかった。テレビで、ごぼうは食物繊維の宝庫、ごぼうが身体にいいとやっていたから、さっそく作って食べ始めたのだ。過ぎたるは及ばざるがごとし。ごぼうばっかり食をやめたらすぐに調子はよくなった。
起き抜けに一杯の水は逆効果!?
食物繊維や運動だけが、便秘を予防するわけではない。内臓の働きが弱くなっている人はおなかを冷やさないように気をつけたほうがいい。もう冷房の入っている職場も多いだろう。冷房が入ってから、便通が悪くなったり下痢したりしている人は、内臓の働きが弱くなっている場合が多い。
おなかが冷えているという感覚はわかりにくいものだが、おなかに手をやってひんやりしたとしたら冷えていると考えていい。内臓の働きが弱くなっているのだ。冷えを予防する腹巻も立派な便秘対策になる。朝、起き抜けに一杯の水を飲むといいとよく言われるが、こういう人には逆効果。冷たい水が 刺激になるどころか、内臓の働きを弱めてしまう。白湯かあたたかいスープ味噌汁の方がいい。
湿邪(しつじゃ)には四川(しせん)料理 その1
湿度が高く、蒸し暑い四川(しせん)盆地
梅雨に入り 蒸し暑くなってきました。蒸し暑いと、あっさりしたもの、冷たいものが食べたくなってきますが、今回のおすすめは中国料理の中の四川(しせん)料理です。蒸し暑い時にむいている唐辛子や香辛料をきかせた、辛みの強い料理です。
四川(しせん)は古くから蜀(しょく)や巴(は)の国と呼ばれた地域で、「三国志」の物語でも知られています。中国大陸の奥深く、揚子江の上流に位置しています。大河に囲まれていて、盆地のため、湿度が高く、蒸し暑いところです。からりと晴れることがほとんどなく、曇る日が多いといわれています。どこかと似ていませんか。そう、淀川などの多く川に囲まれた湿地帯、大阪そっくりです。だから、大阪人に四川(しせん)料理はお勧めなのです(蒸し暑い日本に住む人みんなにお勧めかも)
「辣(ラ-)」の味で汗をいっぱいかく
唐辛子を使った辛い「辣(ラ-)」の味で汗をいっぱいかいて身体の中の余分な湿気、湿邪(しつじゃ)を追い出すのです。滞っている気もめぐらせることができるので、関節炎や肩こりにも効きます。
唐辛子を使った辛い「辣(ラ-)」、山椒の風味の「麻(マ-)」独特な香りの「香(シャン)」などの味わいがあるといわれています。麻婆豆腐(まあぼおとうふ)や担々麺(たんたんめん)がよく知られていますね。
ただし吹き出物に悩む人や、不眠の方、胃腸の弱い方は、唐辛子をたくさん使ったあまり辛いものはやめたほうがいいかもしれません。唐辛子が身体の中で熱に変わり、吹き出物を悪化させたり、不眠をひどくしたりすることがあります。胃腸の弱い方は刺激が強すぎて下痢することもあります。
湿邪(しつじゃ)には四川(しせん)料理 その2
変化する四川(しせん)料理
日本に四川(しせん)料理を紹介したのは陳建民さんだといわれています。1950年代後半 高度成長が始まる時期のこと。NHKの料理番組にもレギュラー出演され、お茶の間にレシピを届けました。先頃 NHKで「麻婆豆腐の女房」というドラマになっていました。
陳建民さんは麻婆豆腐(まあぼおとうふ)の味を日本人、東京人の口にあうように変化させたようです。高温多湿という点で、大阪ほどではありませんが、四川と東京も気候は似たところがあります。ただ生活と文化が違い、四川の人とは身体が微妙に違うのが東京人。その東京人向けに味を変化させるのは、医食同源から考えても理にかなったことです。たとえば日本人は胃腸が弱い人が多いので、四川と同じくらいの唐辛子を使うことに固執すれば、胃痛になったり、下痢する人がたくさん出てしまいます
湿邪(しつじゃ)には四川(しせん)料理 その3
アザラシの脂はおいしくて、身体にいいですか?
よく「本場の味」といいますが、気候風土が著しく違う地域の「本場の味」は、日本で食べても、おいしく感じるとは限りません。ほかの地域で身体によくても、日本でも身体にもいいとはいえない場合があります。
たとえば極北の地で暮らすイヌイット(エスキモー)の人たちは、日本人と同じ顔立ちのモンゴロイドです。白人などに比べ酒が弱い点など、身体は似ていますが食べ物はだいぶ違います。イヌイットの人たちは日本人の醤油のように、何を食べるにもアザラシの脂を付けるといいます。イヌイットの人たちはアザラシの脂をおいしく感じるし、寒さにまけない身体をつくるのにも大切な食べ物といえます。ただ梅雨の蒸し暑い日本で、アザラシの脂をおいしく感じるか、身体にいいかは大いに疑問です。「本場の味」の味は、本場で食べてこそおいしいし、滋養となるのではないでしょうか。
変化する伝統医学
その地の文化生活、気候風土を考えて「本場の味」をアレンジするのは、じつは伝統的中国医学も同じです。中国から漢方薬の医師もよく来日されますが、本当に治療で力を発揮できるのは、来日後半年~1年ぐらいたってからと、関係者の間ではささやかれています。日本の生活や気候を体得し、治療に反映するのに時間がかかるのです。
私が行う針灸のやり方も中国、とくに乾燥した北京とは違います。一方、四川はお灸の盛んなところで、おおいに参考になります。私は親指大の大きさのもぐさ使って温灸、痕のつかないお灸をすることがありますが、これは四川のやり方です。ちなみに日本では米粒か米粒の半分のもぐさを使うやり方が伝統的です。
お灸は湿邪(しつじゃ)をとるのにすぐれた治療法ですから、四川でも大阪でも重宝するのです。ただ気候が似てはいても、生活や食べ物が違い、人が違いますから、四川と大阪の治療のやり方は違うところもあるのです。麻婆豆腐の味が違うように。
湿邪(しつじゃ)には四川(しせん)料理 その4 番外偏かも
41号で四川(しせん)は中国大陸の奥深く、揚子江の上流に位置しています。大河に囲まれていて、盆地のため、湿度が高く、蒸し暑いところです。からりと晴れることがほとんどなく、曇る日が多いといわれています。
と、紹介したところ読者の方から、「河の上流なのに、大河に囲まれというのがなかなか実感できませんね」というメールをいただきました。日本の川は、上流では滝のように急流で小さなものになるので、実感できないのも無理ないですよね。
軍艦もとまれる重慶港
四川省の大都市 重慶には港があります。上流といっても3,000トン級の船舶の航行が可能で、重慶港は内陸の一大物流基地です。どうですかこれで、少しは実感できましたか。
重慶港にはアメリカの軍艦が停泊していたこともあるんですよ。
重慶は日中戦争の時は、蒋介石政府の臨時首都となっています。じつは重慶は旧日本軍により大規模な空襲を受けたことでも知られています。当時も普通の市民に対する無差別爆撃はタブーとされていましたが、ナチスドイツが1937年4月26日スペインのゲルニカでタブーを破り、日本が続きました。1938年10月~1943年8月の5年間218回にわたって爆撃が行われ、死者は11889人といわれています。
揚子江にはアメリカ合衆国の砲艦「ツツイラ」が停泊し、アメリカ人記者は無差別爆撃と重慶市民の被害の様子をアメリカに報道し続けました。「日本は残酷だ」というイメージがアメリカ人に焼き付けられました。湿度が高いため、雲や霧が多く、爆撃する側にとっては街が見えにくい天候の続く重慶の街。1941年7月30日にはアメリカ合衆国の砲艦を誤爆し、日米の緊張が高まっています。12月8日には日本が真珠湾を奇襲し太平洋戦争が始まりました。
重慶大爆撃がアメリカ世論を硬化させ、後の日本の普通の市民への無差別爆撃、東京大空襲、広島、長崎をアメリカ市民は許容していったともいわれています。使った暴力が自分に返ってくる、暴力の連鎖は怖いですね。 あっ、太平洋戦争前夜の日本の様子を実感するには、今 東宝系で公開中の篠田正浩監督の映画スパイ・ゾルゲがお勧めです。モダンで美しい昭和の銀座の街並みがCGで再現されていて、これを見るためだけに映画館に行っても後悔しないと思いますよ。本木雅弘くんのスーツ姿もいいですね。