世の中には疲れやすい方と疲れにくい方がいます。そして疲れにくい方の中には、本当に疲れにくい方と疲れに気づきにくい方がいます。本当に疲れにくい元気な方はいいのですが、疲れに気づきにくい方の疲労の蓄積が大問題です。うつ病になりやすいタイプのひとつです。
◆疲れに気づきにくい方の自己診断法
疲労感を少ししか感じていない状態が前提です。
1.仕事をしていると疲労感を感じない。休日も外出してばかりいる。じつは休日に自宅にいると身体がだるく感じる。外に出ると楽になる。
2.最近 イライラしていると感じることがある。むしゃくしゃすることが多い。
3.早朝に目が覚めることがある。寝つきが悪いことがある。
4.原因不明の微熱がでたりしたことがある。吹き出物が多い。
5.冷たいものがのみたくなる。のどがかわきやすい。
6.声がかれたり、のどに違和感を感じたり、鼻がつまったりしやすい。
以上のうちの2~3つあてはまる方は要注意です。疲労感を感じにくく体調を崩した患者さんの傾向を私が伝統的中医学の視点から書き出してみました。
人の身体には陰(いん)と陽(よう)があります。陰陽ともにまあまあ調和とれている状態が健康です。陰陽は西医の自律神経に近い考え方です。陰が減るとバランスが崩れ、身体が異常な興奮状態になり疲れを自覚しにくくなります。1は自宅で興奮が収まると、疲労感がわかる状態。2は興奮が怒りに転化している状態。3と4と5と6は陰がへって身体に妙な熱がこもっている状態です。とくに6は免疫系がおかしくなっている可能性があります。
元気なのではなく疲労を感じるセンサーが弱くなっているのです。
意識的に睡眠時間を確保するようにしてください。7割ほど疲れたと感じたときはすでに120%疲労している状態です。早めに休養をとってください。冷たいもののとりすぎは身体をひやします。氷を口に含んで口内をさましてください。
◆鍼灸治療に来ていただければ、疲労を回復し、なおかつ疲れを自覚しにくい状態を正常にもどすことができます。
2014年3月22日の朝日新聞に「自動車損害賠償責任(自賠責)保険に対し、接骨院からの保険金請求が急増していることが分かった」というまことに残念な記事が掲載されていました。
http://www.asahi.com/articles/ASG3P5HXFG3PUUPI001.html
「交通事故治療専門」とか「自己負担0円」などとうたっている整骨院がふえていたので、いつかはこういう記事が出ると予想していました。こういう不心得もののために交通事故の被害者、とくに治療が長引いてしまった方がよけいにいやな思いをされるのではと心配です。
11年前に私は以下のようなメルマガを書いています。
☆むち打ち症はじつはPTSD、心的外傷後ストレス傷害の面が大きい
/acupuncture/cat_headache/
私のところで最初から治療を始めて長引いた経験はありませんが、一般的には治療が長引けば長引くほど加害者や相手の保険会社の方との間は険悪になっていきます。患者さんのかかえる苦しみに関する無理解や病気への疑いの攻撃にさらされ、精神的に二次被害をこうむっているのです。そのために治りにくいのです。 中略
追突事故は仕方のないことですが、むち打ち症はじつはPTSD、心的外傷後ストレス傷害の面が結構大きいことを、事故処理にあたる保険会社の方がしっかり認識していただきたいと望んでいます。事故は防ぎにくいかもしれませんが、被害者に精神的に二次被害を与えることはPTSD、心的外傷後ストレス傷害の認識さえあれば防げるのですから。以上11年前のメルマガ一部抜粋おわり。
☆交通事故治療は鍼灸で 急ぎは領収書発行で
むち打ち症は本来は整形外科だけでなく、心療内科もいっしょになって治療すべき疾患です。私は鍼灸で心も首も治していきます。
むち打ち症を鍼灸で治すという認識が保険会社に少ないので、私は患者さんに「保険会社に鍼灸で治すという了解をとってください」とお願いしています。保険会社との連絡を私が代行するようなことはしていません。患者さん自身に汗をかいてもらうことで「治す」という積極的な気持ちになってもらうためです。保険会社には鍼灸の治療費を請求しています。
すぐに治療を開始してほしいという患者さんからは普通に治療費をいただき、領収書を発行しています。患者さんにはその領収書で保険会社に請求してもらいます。
週に2回治療して、だいたいは1~2ヶ月で治しているので、これまで保険会社とトラブルになったことはありません。交通事故治療は鍼灸がよく効きます。早くきちんと治したい方は、どうぞ信頼できる鍼灸院をさがしてください。
1.妻の肩こり、腰痛を防ぐ
現代の生活では筋力を求められる仕事は減っています。ダイエットブームも影響し最近のお母さんは筋力がついていない方が多いようです。
赤ちゃんの抱っこは数少ない筋力を要する仕事。1歳児の平均体重は7.5kg~11.5kg。5キロの米袋を重たがっている女性には酷な話です。 当然、肩こり腰痛に苦しむことになります。 たいていは男性の方が筋力があるので2人で外出の時は夫が抱っこするほうが合理的です。それに出産という大仕事をした後。中医学では出産後1年は女性は気血両虚(きけつりょうきょ)という弱った状態にあると考えています。
2.育児の楽しみを知る
「お父さんだと泣かせてしまう。」というお母さんもいらっしゃいますが、そこは訓練。 育児はめんどうなだけのものではなく、湧き上がるような喜びを与えてくれるものでもあります。女性だけに独占させるのは不公平です。 泣き止まないときは抱っこして赤ちゃんの耳を左胸にくるようにしてみてください。心音を聞かせると比較的落ち着きます。
3.別の時間を経験し、追い詰められない自分をつくる
「短期間に集中して成果をあげる」「てきぱきと処理をする」といった一般の仕事の時間とは別の時間の流れを経験するのが育児です。 赤ちゃんの時間はゆっくりと流れています。成果をあげるばかりではない、ただ見守るだけのような時間の過ごし方もあることを経験してください。 会社の価値観とは違うものをもつことができるようになると価値観の幅が広がります。 価値観の幅が追い詰められない自分をつくります。ストレスに強くなります。
写真は息子を前抱っこする20数年前の私
マリッジブルーの原因には諸説ありますが、実際に結婚を控えた患者さんを何人も治療してきた経験からいうと、結婚式直前のマリッジブルーに関しては「蓄積疲労」が原因です。結婚への不安や不満だけでは結(ゆい)へいらっしゃいません。
突然、腰が痛くなったり、首が痛くなったりする人もいれば、どうにも身体がだるくて仕方がないと訴える方もいらっしゃいます。
朝がなかなか起きれなくなる方や寝つきが悪くなる人もいます。諸症状を鍼灸できちんと治していくのですが、皆さんに共通しているのは、休日に休めていないという事実です。
結婚式の打ち合わせやお互いのご両親への挨拶等で数ヶ月、休日も動き回っているというカップルが多いのです。これでは不満を抱きやすくなったり、感情が不安定になっても当たり前です。極度の疲労からくる一時的な抑うつ状態です。 休日に意識的に休むことが、マリッジブルーの予防になります。
結婚を控えた息子さん娘さんをお持ちの親御さんは子どもさんの過労に気をつけてあげてください。 「この結婚、本当にいいんだろうかと考えてしまうんです。」という患者さんには「うちの治療を受けて一晩ぐっすり眠ってください。翌朝には考えが変わっていますよ。」とお答えしています。
婦人画報という雑誌を買いました。
待合室用に時々、婦人雑誌を買っているのです。
「いったい誰が買うんだ!」とつっこみたくなるような高価なバックや服、宝飾品がカラーページに掲載されている分厚い雑誌です。
そこに、ある有名ホテルに付属する鍼灸とエステとマッサージが融合したような施設が紹介されていました。そこに勤務する鍼灸師の一言「だるくて元気が出ないけれど病院に行ってもどこも悪くないといわれる、成熟世代の女性の不定愁訴などはまさに、鍼灸のストライクゾーンです」
たしかにそのとおり。
たしかに「だるくて元気が出ない」は鍼灸の得意分野です。
「だるくて元気が出ない」女性たちがもっともっと鍼灸治療を受けられたらいいと思います。
でも私としてはもう一言付け加えたいですね。
「だるくて元気が出ない」の治療は鍼灸師としては初級段階、この程度が治せるのは当たり前ですよと。鍼灸にはもっと大きな治療する力がありますよと。
「だるくて元気が出ない」というのも程度問題で、家事もきちんとこなしてパートも行っているけれど「だるくて元気が出ない」という段階から、朝も起きられない、家事もほとんどできなくて買い物も夫に頼んでいるという「だるくて元気が出ない」までいろいろ程度が違います。前者を治せるのが初級段階。後者もきちんと治せるようになって中級段階といったところでしょうか。どれぐらいの日数で生き生きした活動的な状態までもっていけるかということも大切です。
鍼灸業界の事情を話せば、数年前から規制緩和で鍼灸学校が乱立、簡単に入学できるようになっています。初級段階にも達しないような鍼灸師がごろごろ出てきています。もちろん優秀な方もいて玉石混交状態。玉石混交の中から玉を探し出すのは、大変でしょうが、あなたのお近く、通院できる範囲で是非、信頼できる先生を見つけていただきたいのです。
鍼灸には、あなたが考えているよりももっともっと大きな治療する力があります。
このホームページがそのための一助となれば幸いです。
中国伝統医学では針灸と漢方薬は親戚のようなものです。診断法や基本的な考え方も同じ。薬を使うのか、針灸を用いるかの違いがあるだけです。中国伝統医学の立場で治療する私からみると日本の漢方薬の使い方はちょっと変?なのです。
不思議な漢方薬の治療
中国伝統医学は東アジア各地に伝わり、独特の呼び名となっています。日本では漢方という呼び名が一般的。漢(中国のある王朝の名前)の国から伝来したから漢方です。
韓国では韓医学、中国から伝来した医学なのですが、中国と陸続きの国だけにあえて独自性を主張しようとするのでしょうか、韓医学と呼びます。 伝統医学で治療する場合、伝統医学の知識が必要なのは当たり前のこと。西洋医学とは違うので、資格も中国や韓国では別れています。中国では中医師、韓国では韓医師という資格が西洋医学の医師とは別に存在しています。
ところが日本では、医師という資格があるだけです。中国伝統医学や漢方のカリキュラムは日本の医学部にほとん ど存在しません。でも一部の漢方薬には保険が認められており、多くの医師は中国伝統医学や漢方の知識のないままに漢方薬を患者さんに処方しています。これが現実です。一時 小柴胡湯(しょうさいことう)の副作用などがニュースになったことがありましたが、知識のないまま漢方薬を使っていれば、問題がおきるのは当たり前です。
伝統医学の知識のある医者の見分け方
独学で勉強されたり、中国へ留学されたりして中国伝統医学や漢方の知識をきちんと身につけていらっしゃる医師の方々も少数ながらいらっしゃいます。私も何人かのお医者さんとお付き合いしています。きちんとした中国伝統医学や漢方の知識をもつ先生の見分け方は簡単です。
漢方薬をきちんと飲みたいと思っていらっしゃる方は以上を参考に、医者や薬局をあたってみてください。薬剤師 さんにも、中国伝統医学や漢方の知識をきちんと持つ方はいらっしゃいます。
自分の判断だけで たとえばネット通販で漢方薬を買おうというのはどうも賛成できません。合わない薬は身体によくないからです。
おとなしい日本人
半月ほど前、バングラディシュから一時帰国した鍼灸師の友人と話す機会がありました。夫はバングラディシュ人。彼女はバングラディシュ人にもバングラディシュ在住の日本人にも針灸治療しています。 彼女が「日本人はおとなしすぎる。自分を表現するのが下手だ。バングラディシュ人もバングラディシュ在住の韓国人や中国人もうるさいくらい自己表現する」と、嘆息するようにいっていました。彼女は、異文化の中で「うつ」状態に陥った日本人エリートを治療していました。
メモはありがたい
日本人は自己表現が苦手です。みなさんは治療家や医者の前で自分の症状、つらいところをきちんと説明できますか。緊張してうまくいえなかった経験をもつひとは多いのではないかと思います。 伝統医学にもとづく針灸は、患者さんの体型、顔色や脈、舌の状態などをみて、声の調子を聞き、身体全体の状態をつかみます。一番 つらいことだけきちんと言ってもらえば、後は詳しく聞かなくても大体は診断できます。自己表現の苦手な患者さんにとって楽なやり方です。 ただそうはいっても、きちんと患者さんの情報を、こちらに伝えていただくのにこしたことはありません。結(ゆい)でも初診の患者さんが、症状や病歴のメモや手紙を持ってこられることが時々あるのですが、大変ありがたいものです。
治療後の病状の変化、質問などメール大歓迎
最近は、治療中の患者さんから、治療後の病状の変化、質問などをメールでいただくことがあります。これも治療の効果がよくわかり、大変ありがたいもので す。次の治療方針もたてやすくなります。いただいたメールの回答は、たいてい次の治療時に口頭でしています。泌尿器系の悩みなど、面と向かって聞きづらいことを相談されることもあります。
今、結(ゆい)に通院中の読者の方は、どうぞ気軽にメールしてください。「膝がこの前から違和感があったことを言えなかった」「夜中に最近 汗をかくよう になったんだけどなんでだろう」などということはありませんか。思い立ったときにメールしてください。メールはきちんと印刷して、カルテに貼り付けています。まだ電子カルテではないので(^^;)
伝えたいことはメモして準備
私がありがたいことは、ほかの医者、治療家の先生方にもありがたいはずです。 私は、患者さんやその関係者の方々が ほかの医者、治療家の先生方のところに初めて行かれる時は、伝えたいことをメモして準備するように勧めています。読者の皆さんも試してみられたらいかがでしょう。
身体をつくることが、脳の状態をよくして結局は学力を向上させる
まちがった勉強の仕方
学校の合格発表も終わりました。受験も終わり、親も子もほっと一息 というところでしょう。現代の子供たちの勉強の仕方を見ていると「なんか間違っているな」と感じることがあります。
健脳補腎(けんのうほじん)とは
お年寄りに針灸を続けていると、最初は「頭がもやもやしていたのが すっきりした」と、いう程度だったのが、そのうち「本を読んでも、内容が頭に入らなかったのが分るようになってきた」といわれるようになることがあります。
中年の働きすぎの「うつ病」一歩手前といった感じのサラリーマンの方に針灸を何度かすると 「集中力が回復してきた」とか「記憶力が戻ってきた」といわれることがあります。
いずれもいくつかのつぼを使い健脳補腎(けんのうほじん)の治療をしたためです。
腎を消耗させること
結(ゆい)通信26号で「伝統的中国医学でいう腎は腎臓だけでなく、生命力や老化にも関係します。恐怖がすぎ ると腎を傷つける。幼いころから家庭内暴力にさらされている子供は成長が遅い、小さなままでいるといったことが指摘されています。恐怖が成長する力を奪う のです」と書きましたが、伝統的中国医学はもうひとつ、腎に関連して大切な働きがあると考えています。腎は脳に通じているのです(西洋医学の腎臓と混同し ないでください) だから補腎(ほじん)すると健忘や「うつ」に効くのです。幼いころから家庭内暴力にさらされている子供は成長が遅いだけではありません。学力も低下しま す。
じつは腎を消耗させるのは恐怖ばかりではありません。働きすぎも腎を消耗させます。中年の働きすぎのサラリーマンに「うつ病」が多いのもそのためです。
勉強時間が長ければいいというものではない
働きすぎも勉強のしすぎも、同じことです。短期的には「気」を、長期的には腎を消耗させます。無理して長時 間、子供たちを勉強するように仕向けても、脳の状態がよくなければ 覚えるものも覚えられません。解ける問題も解けません。休養と睡眠 バランスのとれた 暖かい食事が何より大切です。 身体をつくることが、脳の状態をよくして結局は学力を向上させることにもつながります。
各人にあった適切な勉強時間で勉強する
身体の強い子もいれば、弱い子もいます。身体の強い子はある程度の長時間の勉強に耐えられますが 弱い子はそうもいきません。各人にあった適切な勉強時間で勉強することが 結局は学力向上につながります。長時間の勉強では疲労しすぎてしまう子供は、集中して短い 時間で、効率よく学習したほうが効果的です。
親にできること
小学校から、やせ馬に鞭打つように勉強させたところで、大学受験までは長いのです。高校あたりで力尽きてしまいます。
十分な睡眠をとれるように仕向け、バランスのとれた暖かい食事で お子さんを支えてあげてください。身体をい たわってあげてください。成人するまでの健康管理は親、母親だけではなく両親の責任です。できるだけ健康な身体に育ててあげてください。大学受験後の人生 はもっと長いのですから。
伝統的中国医学では気持ちが身体に与える影響を細かく分類しています。
恐怖がすぎると腎を傷つける。伝統的中国医学でいう腎は腎臓だけでなく、生命力や老化にも関係します。幼いころから家庭内暴力にさらされている子供は成長が遅い、小さなままでいるといったことが指摘されています。恐怖が成長する力を奪うのです。
怒りすぎると肝を傷つける。伝統的中国医学でいう肝は肝臓というよりも、自律神経系の働きに近いものです。怒 りすぎると、おなかがはってきてわき腹のほうが痛んだり、咳がでることもあります。胃や十二指腸の潰瘍(かいよう)や胆石、いつまでも続く咳の原因だった りもします。肝風内動(かんぷうないどう)といって脳血管障害をもたらしたりもします。
悲しみが過ぎると肺を傷つける。ため息ばかりして、気分が落ち込みます。元気がなくなり、免疫力が低下します。風邪やいろんな感染症にかかりやすくなります。胸が詰まるような感じがして情緒不安定になります。うつ状態になります。
憂いがすぎると脾を傷つける。西洋医学の脾臓ではなく、食べて消化し、身体の栄養とする働きのことです。くよ くよと思い悩むと、食欲がなくなり、食べてもおいしく感じなかったり、味をうすく感じたりするようになります。胃や胸のところに食べ物が滞っているような 感じがします。無理やり食べても、消化し、身体の栄養とする働きが低下しているため、やせていきます。あるいは下半身中心にむくむようになります。
親しい友人や家族が傷ついたり、亡くなったりすると人は悲しみ、憂い、そして怒ります。
空襲の爆音、爆弾の破裂する音、振動。戦争の暴力は激しい恐怖をもたらします。
今日、戦争が始まりました。戦争は直接間接に人を傷つけます。
「いやあ疲れがとれなくてね、腰もだるくてもう年ですかね」と80歳近くの男性の患者さんがいう。「そうですかねえ、(注)とにかく治療すれば大丈夫ですよ」 とにこにこ笑ってあいまいに返事する私。ここで 安易に「そのとおり、あなたもお年だから」などとあいづちなどうつと、むっとされる患者さんもいる。老化は現代では、忌み嫌われている。
(注)とにかく治療すれば大丈夫ですよという言葉に嘘はない。針灸は老化によるいろんな症状をずいぶん改善できるからだ。「年だから無理」と切り捨てることはしない。
伝統的中医学の世界では 老中医(ろうちゅうい)というのはたいそうな誉め言葉だ。学識に富み、経験をつんだ医者は 湯液(漢方薬)でも針灸方面でも尊敬される。
伝統的中医学の世界では、伝統医学の考え方で現代の患者さんたちを、いかにうまく治していけるかということに重点がおかれる。個人技の要素も強いから、年をとり臨床を重ねる方が、おおむねうまい治療家になる道だ。新しい治療技術よりも、伝統的なやり方を洗練させていくほうを重視するから、経験が長いほうが有利だ。
中国では拝師(はいし)運動といって、老中医の経験と学識を継承するために、若い(といっても40~50代の)働き盛りの伝統的中医学の医師、鍼灸師が老中医に弟子入りするといったことが 近年、政府の政策として行われもした。老中医の経験と学識も パソコンに入れられ一生懸命テ゛ータベース化 されていると聞く。
なぜ日本では 老化がこれほどまでに忌み嫌われるのだろう。老人の知恵が役に立たなくなったから、正確には老人の知恵が役に立たなくなったと思い込まされて いるからだろう。いつ種をまくか どんなふうに水田の水を管理するのか。老人は 地域特有の山や川の在り様、自然が 生産効率に大きな意味をもつ日本の農 村では貴重なデータベース、知恵袋だった。職人芸的な手工業の世界でも同様だった。商人の世界でも信用を体現し、複雑な商習慣を知る貴重な存在だったろう。
戦後、道徳教育が軽んじられたから、老人を大切にしなくなったわけではない。老人の存在と知恵が活躍する場が著しく狭められたから、人々は老人を大切にしなくなった。そして、これまで以上に老化を忌み嫌うようになった。
大量生産大量消費が立ち行かなくなった今、再生可能でそれなりに自然環境にもやさしかった時代の知恵のあり方は今後見直されてくるだろう。 伝統医学が見直されているように、人生や仕事を積み重ねた老人たちの知恵も見直されるようになるかもしれない。
そのとき人々はもう少しゆったりとした気持ちで、老化をうけいれることができるようになるだろう。腰のだるくなるつらさも 運動会の後の筋肉痛を 中年のおとうさんが「あっ!来たな」と感じるぐらいのと同じくらいの寛容さで受け入れることができるようになるかもしれない。
腰のだるさとともに 患者さんは 老化に対する「怒り」や「恐怖」「悲しみ」の感情を持っていることがある。そのとき だるさは「ひどくだる痛い」ものとなり 耐え難いものとなる。